独身時代が長かった私は、自炊があまり得意ではなかった。米は自分で炊くが、料理はほとんど作れない。しかも大食漢だ。おやつは某有名大手菓子会社の商品を食べまくり、昼食と夕食には必ずと言って良いほどカップ麺を食べていた。夕食のカップ麺は絶対に大盛りでないと気が済まず、添加物について気にした事など全くなかった。
私は皮膚が弱いので、30代の頃にひどく擦りむいてしまった左脚の傷がなかなか治らなくて困ってしまった事がある。非常に大きなかさぶたになったこの傷は、どうしたわけか一向に消えてくれないのだ。普段はズボンで隠せるから良いが、夏に短いズボンを履く時などは、みっともないし恥ずかしくてたまらなかった。ズボンの布地とこすれて痒くなり、ついつい爪で引っ掻いて、治りかけているかさぶたを再び剥がしてしまう事も日常茶飯事だった。皮膚科の医師にも匙を投げられ、どうしたものかと悩んでいた時に出会ったのが今の妻である。最初は見せなくても良かった左脚のかさぶただが、ついに見せる時が来てしまった。
妻は私の話を聴いていたが、やがてきっぱりと言い放った。「あなたに今後、絶対に食べないで欲しいものがあるの。おやつにしているお菓子と、カップ麺よ。どちらも添加物がたくさん入っているから、それがあなたの脚の傷の治癒を妨げているとしか思えないの。お願いだから、私の言う事を聞いて。騙されたと思って、お菓子やカップ麺をやめて。」
その真剣な表情と口調に、従わざるを得なかった。間食とカップ麺をやめて一ヶ月後、妻に左脚の傷を見せたら「あら!やっぱり以前よりも傷の面積が減っているわよ!」と叫んだ。恐る恐る見てみると、本当に妻の言う通りだった。
一緒に暮らすようになってからは、添加物がいっぱいの菓子もカップ麺も、食べる余地はもう完全になくなった。勿論、妻はこうしたものは一切買わないし、食卓にも出さない。たまに私が「カップ麺の味が恋しいなぁ」と言おうものなら「あなた!いい加減にしなさい!」と本気で怒っていたほどだった。
脚の傷はみるみる小さくなって行った。もともとの面積が非常に大きいので、まだ完治こそしていないが、以前とは比較にならないほどに小さくなった。添加物がいっぱいの食品を排除したからだと実感できた。
現在ではもはや、かつて大好きだったはずの菓子が、変な味・食感だと感じられて、気持ち悪くなって食べられなくなった。添加物が一切入っていない、本当に身体に良いものだけを食べて、自分自身をくれぐれもいたわりたいと思う。この事がいつもできるならば、きっと他者の事も本当に思いやり、いたわる事もできるようになるだろうから。この、とても大切な事を、さりげなく教えてくれた妻よ、ありがとう。感謝して止まない。