6歳の少年のまなざし(新潟県・近藤さん)

 無添加生活に一瞬で切り替えられる人なんているのだろうか。

 私は現在50歳。お恥ずかしながら無添加食品生活1年生だ。以前から添加物が身体に悪いことは何となく理解していた。食品添加物の本を手に取ったこともある。添加物一覧表のコピーを片手に買い物したことだってある。しかし、どれも長くは続かなかった。まるでダイエットのように、「無添加食品生活」への挑戦と失敗を繰り返す日々だった。

 しかし、そんな私にもある日救世主が現れた。それは、友人の息子のしんちゃんだった。彼らと外食したときのこと。おしゃべりの輪に加わらず、一人ポツンと座るしんちゃんが目に入った。目を大きく見開いたり、眉をひそめたり。食事の手を止め、何分もジーっと何かを見つめている。「しんちゃん、何しているの?」と聞くと、彼は恥ずかしそうに笑った。手にしていたのは、アニメ柄のふりかけの袋。ジーっと見ていたのは、イラストではなく袋の裏側。お母さんによると、しんちゃんはなんと一人で添加物チェックをするのだと言う。わずか6歳の子どもがである。

 驚く私にお母さんが説明してくれた。食品の原材料名は、「/(スラッシュ)」の後ろが添加物であること。子どもには「裏側にたくさん文字が書いてあるものは身体に悪い」と説明したこと。なんてシンプルなんだろう。頭でっかちになっていた私には目から鱗だった。

 私は張り切って買い物に出かけた。ところが、本当に大変なのはそこからだった。スーパーへ行っても買えるものが見つからない。今まで使っていたドレッシング、調味料から缶詰にいたるまで、裏側には文字がびっしり。私はスーパーの売り場でフリーズした。世の中がここまで食品添加物でいっぱいだとは、想像もしていなかったのだ。一瞬また心が折れそうになった。でも、すぐにしんちゃんのあの真剣なまなざしを思い出した。6歳の子どもにできて私にできないはずがない。しんちゃんを見習おう。私も袋の裏側を黙々と見続けた。

 そして私は変わった。買い物の基準はシンプルになった。潔く「スラッシュの後ろに何もないもの」しか買わないと決めたのだ。だから、今ではスーパーへ行ってもほとんどのコーナーが素通りだ。ドレッシングもお菓子もふりかけも、手作りするようになった。料理もシンプルになった。焼き魚と野菜たっぷりのみそ汁、納豆、漬物。それで十分だった。それだけで心も身体も満たされた。

 長年の習慣を変えるのは、本当に大変だ。私はここにたどり着くまで50年もかかってしまった。だけど、ほんのちょっとしたきっかけで人は変われる。あのまなざしに出合えて本当によかったと心から思う。