物心ついたときから、無添加に囲まれて育った。せっけんもシャンプーも、肌にやさしい天然成分百パーセント。食卓に並ぶ料理はどれも母の手づくりで、旬の野菜や魚がたっぷり。味噌やお漬物、ドレッシングなども、よく家でつくっていた。もちろん、合成保存料や着色料や甘味料など、余計なものは一切入っていない。
「無添加が一番、いちばんっ」
白い花柄のエプロンをゆらしながら、母がいつも口癖のように言っていたっけ。どういう意味か詳しくわからなかったけれど、安心安全なイメージが強く、なんとなく守られている感じがした。
とはいえ、年頃になれば、刺激が欲しくなる。濃く派手なモノたちが、ほいほい近寄ってくる。
「ねえ、みんなで放課後おしゃべりして帰ろうよ」
「いいよ、いいよ」
ジャンクフードのうまい誘惑に勝てず、部活の仲間たちとよくムシャムシャ頬張った。食べ過ぎて口内炎に悩まされながらもやめられず、ファストフード店のテーブルをぐるりと囲みながら、ファッション誌をバサッと広げた。ペラペラ捲るたび、口コミとともに紹介されているスキンケアアイテムを見てうっとり溜息をもらして、片っ端からいろんなブランドを試した。新商品が出るたび目移りして、何度も浮気しながら肌荒れをくり返していた。
(よし、原点にもどろう。やっぱり、無添加が一番だよ)
おでこのにきびをなでて、青く澄み切った空を仰いだ。大学を卒業して働き始めた、新緑のころだ。爽やかな風が駅前の広場を吹き抜けて、心地よい。
スーパーを回って積極的に無添加の食品を選ぶようになり、オーガニックの化粧品を洗面台に置くようになった。ぶり返す肌トラブルにさよならして、次第に柔和な笑顔で鏡の前に立てるようになっていった。
子どもがうまれてからはさらに意識が高まり、無添加に対するこだわりは強まる一方だ。かつて母が家族の健康を第一に考えていたように、体に心に地球にやさしいチョイスを広く取り入れて、これからも明るく朗らかに暮らしていきたい。