今回は、日本の樹木にどれくらい精油が含まれているかをご紹介します。その前に、まずは精油とはどのようなものなのかを説明します。
精油はフィトンチッドを凝縮した液体(飲みものではありません)
フィトンチッドといえば、精油(エッセンシャルオイル)ですね。精油はフィトンチッドを凝縮した、超濃厚な液体です。昨今は「精油を飲んで健康になる」と喧伝する人が増えているようですが、植物エキスメーカーの立場から言わせていただくと、飲まないほうが賢明でしょう。なぜなら、フィトンチッドが凝縮された精油は、飲むには濃すぎるからです。自然界の考え方では「薄いほうが良く効く」のです。精油はハンドクリームやボディクリームに数滴入れたり、アロマディフューザーやお風呂に数滴入れるくらいが適量です。
ドテラ社のエッセンシャルオイルを扱うインフルエンサーの中には、「精油を数滴、カプセルに入れて、胃腸に直接オイルを届ける。これが元気の秘訣!」などと投稿している人がいますが、将来が心配になります。飲むための専用のカプセルも売られているようです。また、「子供が風邪をひいたら、8種類のエッセンシャルオイルを順番に背中に塗ってマッサージをする。これで風邪が早く治った!」などと投稿している人も。アロマタッチと呼ばれており、背中全体に塗り込むようなので、精油の消費量はかなり多いように思います。
ここで疑問が生まれるでしょう。精油をカプセルに入れて飲んだり、精油を背中にたくさん塗り込んだりすることに、本当に意味があるのでしょうか? 大人であれば「常識的に」「直感的に」考えてみましょう。
「常識的に」「直感的に」考えれば、「意味がないし、良くない気がする」と思われるでしょう。そもそも、それらの情報は「エッセンシャルオイルをたくさん消費させるため(金儲けのため)に投稿・拡散されている」のです。それを理解した上で精油を購入し、飲用・多用するのは個人の判断ですから好きにすれば良いでしょう。しかし、家族や子供を巻き込まないでほしいのです。
私たちが精油を製造しなくなった理由
私たちは、今は植物エキス(エッセンス)を製造していますが、昔はスギやヒノキのエッセンシャルオイルを製造していました。高品質な精油で評判も良かったのですが、ご存知の通り精油は1回に少量しか使いません。個人であれば、10mlの小瓶を1本買えば何ヶ月も持ちます。業務用は1リットル単位で販売していましたが、1回注文があったら、次の注文は数年後……これでは商売になりません。経営上の理由で、精油の製造を止めました。
だから、精油を飲ませたり体にたっぷり塗ることを推奨したくなるのも理解できるのです。「精油をたくさん消費してくれないと、お金が儲からないし、会社が存続できないから」です。
ここ数年、アイ・ジャパンを訪れる主婦の人は、けっこうな確率でドテラ社の精油を持っています。「このエッセンシャルオイル、飲めるんですよ〜」と教えてもらったこともあります。こんな岐阜県の片田舎にまで広まっているのですから、ビジネスとしては大成功だと思います。
精油は私たちの健康にとても良いものです。ただ、ビジネスのために精油をたくさん消費させることを推奨するのはいかがなものでしょうか。精油は私たちの健康にとても良いものですが、お金儲けの道具として利用されている精油は、ちょっと気の毒に思います。
ドテラ社を否定するわけではありません。精油を生活に取り入れ、健康や美容に役立てることには賛成です。ただ、「精油を料理に混ぜること」「精油をカプセルに入れて飲むこと」「子供に精油をたくさん塗りつけること」を推奨する、専門的な知識を持たないインフルエンサーが一定数いることは事実であり、それを見た主婦の人たちが、安易に家族(とくに子供)に試すことが大きな問題だと感じています。
量が少なければ「薬」、量が多ければ「毒」になる
フィトンチッドが凝縮された精油は、少量であれば「薬」になりますが、大量に使うと「毒」になります。精油に限らず、なんでもそうです。ミネラルたっぷりのニガリは体に良いですが、飲みすぎると毒です。漢方薬でも、ハーブティーでも、飲み過ぎたら良くないことは理解できると思います。これは基本的な考え方ですので、ぜひ覚えておいてください。
植物が作り出した知恵の結晶とも言えるフィトンチッド。そのフィトンチッドを凝縮させたものがエッセンシャルオイルです。だから、精油は香りを嗅ぐだけ、アロマディフューザーなどに数滴入れるだけでも十分な健康効果があると言われています。森林浴と同じような状態になるわけですから、当然ですね。
精油の種類によりますが、森林浴効果を得たい場合は樹木系のオイルがおすすめです。リラックスやリフレッシュ目的であれば好きな香りを選びましょう。
日本の樹木には、どれくらい精油が含まれている?
前置きが長くなりましたが、日本の樹木にどれくらい精油が含まれているのかをお伝えします。まずは日本を代表する針葉樹であるヒノキから。
ヒノキ科 針葉樹
樹木の種類 | 精油含有量 |
---|---|
ネズコ | 4.2ml |
ヒノキ | 4.0ml |
ニオイヒバ | 4.0ml |
アスナロ | 2.4ml |
チャボヒバ | 1.7ml |
ハイビャクシン | 1.7ml |
サワラ | 1.4ml |
ヒノキアスナロ | 1.4ml |
ネズミサシ | 1.3ml |
カイヅカイブキ | 0.9ml |
オキナワハイネズ | 0.7ml |
エンピツジャクシン | 0.5ml |
ヒノキやヒバに精油が多く含まれることは有名ですね。わずか100gの乾燥した葉っぱで、4mlの精油が摂れるわけです。かなりの量ですね!
しかも、葉っぱは間伐時に山に放置されることがほとんどです。放置されたスギやヒノキの葉っぱを有効活用することで、森を守りながら、精油や植物エキスがたくさん作れるわけです。最高の自然の循環ですね。ぜひ全国の森林組合に採用していただきたいです。
漫画『鬼滅の刃』の鬼になった少女・禰豆子(ねずこ)の名前は、植物のネズコが由来なのでしょうか? そんなネズコは、ヒノキ科の中でもっとも精油が豊富な樹木なのでした。
スギ科、イチイ科、イチョウ科、イヌマキ科 針葉樹
樹木の種類 | 精油含有量 |
---|---|
スギ | 3.1ml |
コウヤマキ | 0.7ml |
コウヨウザン | 0.4ml |
カヤ | 0.7ml |
キャラボク | 0.2ml |
イチイ | 0.1ml |
イチョウ | 0.4ml |
イヌマキ | 0.1ml |
このグループでは、スギが圧倒的に精油が多いですね。スギは過去に植林され過ぎて、間伐もなされず、放置林となり災害の原因となります。また、スギ花粉に化学物質がくっついてアレルギー症状を起こす「花粉症」も、大きな社会問題になっています。(スギ花粉が花粉症の犯人ではありません。これについては別の記事でまとめます)
マツ科 針葉樹
樹木の種類 | 精油含有量 |
---|---|
トドマツ | 8.0ml |
エゾマツ | 2.1ml |
シラベ | 2.1ml |
ハイマツ | 2.0ml |
アカエゾマツ | 1.4ml |
トウヒ | 1.1ml |
モミ | 0.9ml |
ツガ | 0.8ml |
ストローブマツ | 0.6ml |
アオトウヒ | 0.4ml |
ヒマラヤスギ | 0.3ml |
カラマツ | 0.3ml |
ダイオウショウ | 0.3ml |
イヌカラマツ | 0.3ml |
アカマツ | 0.2ml |
マツといえば、松脂(まつやに)のイメージが強いでしょう。いかにも「油が多そう」な気がしますが、実際にその通りで、トドマツは日本の針葉樹の中でも群を抜いて精油が多い植物です。
クスノキ科、シキミ科、ツツジ科、ユキノシタ、ミカン科、ブナ科 広葉樹
樹木の種類 | 精油含有量 |
---|---|
クスノキ | 2.4ml |
タブノキ | 2,2ml |
ヤブニッケイ | 2.0ml |
シロダモ | 0.4ml |
シロモジ | 0.4ml |
シキミ | 4.4ml |
アセビ | 0.1ml |
ノリウツギ | 0.1ml |
ミヤマシキミ | 2.4ml |
サンショウ | 0.6ml |
クヌギ | 〜0 |
シラカシ | 〜0 |
スダジイ | 〜0 |
このグループは広葉樹です。データが少ないのは、広葉樹はそもそも精油の含有量が少ないためです。広葉樹よりも針葉樹のほうが、精油を多く含むと覚えておきましょう。
(谷田貝光克著『森林の不思議』より引用)
まとめ
いかがでしたか? 今回は、精油をどのように扱うべきか、どのような樹木に精油が多く含まれているかを紹介しました。自然の恵みである精油を正しく使用し、日常を豊かにしていきましょう。
ちなみにアイ・ジャパンでは、精油ではなく植物エキス(蒸留水)を作っています。精油は前述のように販売が難しいですが、植物エキスはそのまま化粧水の原料になりますし、消臭剤、除菌スプレー、虫除けスプレーとして利用できます。加湿器や噴霧器に入れて森林浴を楽しんだりと、とても便利です。
「間伐材を活用したい!」
「樹木の葉っぱを抽出してみたい!」
「ハーブやフルーツ、花のエキスを作ってみたい!」
など、興味がありましたら、こちらのページを参考にしてください。それではまた次回。