好き(埼玉県・こまゆみさん)

  私はお菓子が好きだ。お菓子と言ってもポテトチップとかクッキーとかじゃなくて、無添加のお菓子が好きだ。「これは無添加だから赤ちゃんでも食べられるわ」と言うと「結局自分ひとりで食べるんだろ」と夫が的確なツッコミを入れる。このやり取りが好きだ。

「この無添加のラムネおいしい!結婚したいくらい!」と言う長女に「すぐに消化されて明日には別れるぞ」と長男が呟く。この冷静さも好きだ。「無添加ってなあに」と尋ねる三男に「オーガニックのことよ」と言い、「オーガニックってなあに?」と聞けば「無添加のことよ」と返す。次女のどうしようもない返答が好きだ。祖父に『無添加の醤油買ってきて!何も入ってないやつね!』頼むと、なぜか空っぽの醤油差しを買ってくる。こんな勘違いも好きだ。

  化粧品も好きだ。化粧品と言っても、有名なメーカーやモデルさんが使ってるのではなく、無添加の化粧品が好きだ。「この化粧水、無添加で低刺激なんだって!パパのボーナスで買って!」と三女が夫を刺激する。この時の夫の歪んだ顔が好きだ。難色を示す夫に「何でも買ってくれるパパ、大好き。カッコいい。マコチャンもそう言ってたよ」と添加物たっぷりの言葉で甘える。三女の変わりようも好きだ。

  彼女の誕生日プレゼントにリップクリームを買った次男が「これ無添加だよって言った方がいい?それともオーガニックって言った方がいい?」と、どうでもいい二択で悩む。そんなウブなところも好きだ。

  お酒も好きだ。お酒と言ってもビールとか日本酒とかでなく、無添加のお酒が好きだ。誕生日に夫が赤ワインを買ってきて「無添加だからいくら飲んでもいいぞ」と訳のわからない理屈をこねる。飲んだあとも「やっぱり俺のチョイスは最高だ。さすがだなぁ」と自分に酔いしれる。そんな自信過剰なところも好きだ。「ああ、なんで私は彼氏ができないんだろう」と酔いつぶれる長女に、「この前、ラムネと結婚したからだろ」と長男が痛快な一言を放つ。この雰囲気も好きだ。

  お風呂も好きだ。お風呂と言っても、温泉とか、サウナとかじゃなく、無添加の入浴剤で温まるのが好きだ。アトピー持ちの私のために子どもたちが無添加の入浴剤を買ってくる。その一つ一つに書いてある「ママ、ありがとう」の文字を見るが好きだ。私がお風呂に入ろうとすると「ぼくも」とパンツ一丁の四男がやって来る。さらに「ぼくも!」スッポンポンの三男が割り込む。このふたりの争いも好きだ。そんな弟たちを横目に「たまにはパパも一緒に入ったら?夫婦なんだし」と次女が上から目線のアドバイスをする。彼女のおマセなところも好きだ。

しかしそんなわが家もかつてはアトピーで苦しんだ。周りから嫌なことも言われたし、痒くて眠れないこともいっぱいあった。アトピーのせいでプールに入れなかった長男。不登校になった長女と次女。「ブツブツ」とあだ名をつけられた次男。素材が合わず園服を着られなかった三男と四男。みんな、みんな、苦しかった。「ママの顔はアトピーがひどいから参観に来ないで」と言われた時だって、悲しかった。だけど皆で乗り越えた。身体にいいもの、心が笑顔になるもの。それを探したところ、たどり着いたのが無添加だった。

最初は「アトピーがひどくなるから」と避けていたスナック。入浴剤を避けてシャワーで済ませていたバスタイム。それらが『無添加』のおかげで可能になった。もちろんメイクもできるし、長い髪でアトピーを隠す必要もなくなった。食事も、お酒も、お洒落も、お風呂も、楽しめる。そんな『無添加』は最高で、最強。命の恩人みたいな存在だ。

  このエピソードを書いている途中に「そうか。私は無添加も好きだけど家族はもっと好きなんだ」と言うと「ママ、たまには良い事いうじゃん」と長男が嬉しそうに答える。この雰囲気もすごく好きだ。

  これからも私は家族のために『無添加』を選び続ける。皆が健康になれたらいいし、笑顔になれたら、もっと、いい。そんなことを考えるのが、今は一番、好きだ。

寸評

とても読みやすく、流れるような文章。ユーモアいっぱいの家族間のやりとりが微笑ましい。アトピーで苦労された経験を乗り越え、皆が笑顔でいられる姿は、いま現在、アトピーやアレルギーで苦しんでいる方々の希望です。(坂田諭史)

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